梶山ひろし オフィシャルウェブサイト

梶山メモ  公的資金導入の具体策

(1998年(平成10年)2月 記者会見で発表)現状分析現在進行している、いわゆる「三十兆円構想」(金融機能安定化緊急措置法)は、このままでは宝の持ち腐れであって、金融安定化の目的を十分に達しえないと考えています。むしろ運営の仕方を誤ると、最悪の銀行救済策にしかならないのではないか。
単に、優先株などを発行し、預金保険機構がそれを買い上げる形の「銀行の自己資本」への資本注入には、次の問題点があります。
一 モラルハザード(倫理の欠如)が決定的になる。
経営者に経営責任もとらさず、公的資金の導入がなし崩しに行われれば、広く一般国民の支持は得られにくい。
二 肝心かなめの「不良債権者に」が手付かず。
公的資金を使って上からまんべんなく資本注入し、見かけ上はアメリカの銀行並みの自己資本率となっても、日本の銀行系の根本問題である「不良債権処理」は進みません。したがって、不良債権処理を先送りにするだけです。
これでは、預金者の銀行不信は一層深まり、海外からは「国家機関による銀行救済」としか受け止められません。実際、緊急措置法の成立後も、格付け機関ムーディーズによる邦銀に対する格付けは効果ありません。大手銀行でさえも軒並み、格下げ、あるいは格下げを検討されていることを十分に認識すべきではないでしょうか。今の措置が海外から評価されていない証左です。

現在、日本の銀行百四十六行が抱える損失(債権の丸こげ)は、一月に大蔵省が公表した不良債権七十六兆円の半分としても四十兆円近いはずです。百四十六行の自己資本の総計は約三十一兆円ですから、この損失がいかに破壊力が強いか、がわかります。昨年来、銀行に対するさまざまな施策が実施されていますが、依然として金融クライシスの状況は変わっていません。このことを肝に銘じて、われわれは政策を考えるべきです。
今こそ、いかに「三十兆円」をうまく使うかが政府に問われているのです。
改めていえば、「三十兆円」を何に使うのか。それは銀行再建(金融ルネサンス)に他なりません。銀行再建のために、政府は、思い切った資金を投入するという覚悟を今一度新たにする必要があります。

対応策
ディスクロージャー(情報開示)の徹底

ではわれわれは何をすべきか。
最も重要なのは、銀行のディスクロージャー徹底させることです。どの銀行がどれほど傷んでいるか、が分からなければ対応のしようがない。銀行再建のためには銀行の実態をきちんと把握しなくてはなりません。そのためには、各銀行の経営状況を徹底的に情報開示させることに尽きます。
具体論でいえば、各銀行に対して、自己査定と大蔵・日銀による査定によって、不良債権を確定し、分類させることです。
そのうえで、全銀行に強制的に「引き当て」を実施させます。早急に「債権償却特別勘定」(将来の損失に備えた積立金)を積ませることです。
以下、公的資金導入までの手順を示してみましょう。

一 百四十六行すべての銀行に対して、貸し出し債権を精査させ、不良債権を分類(第一分類から第四分類)を行う。同時に、金融当局による検査をできうる限り徹底し、現時点における不良債権額を確定させる。

二 分類債権に応じて、原則として下記の引き当てを行う。
第四分類--回収不能--百%の引き当て
第三分類--回収に重大懸念--七十五%の引き当て
第二分類--回収懸念--二十%の引き当て
(過去の貸倒れ実績に基づき、正常債権「第一分類」にも一定の引き当てを積んでいる場合は、「第二分類」の引き当て率は一五%とする)
ただし、この引き当てを強制的に行うか、法的な立法措置を伴うのかは検討する必要があると思います。
こうした厳格な分類債権の公表によって、銀行の経営状況は明確になります。
さらに「早期是正措置」により、百四十六行の経営状況を評価し、区分していきます。

海外基準を適用する銀行の場合   国内基準
自己資本比率  八%以上       四%以上  非区分行
四から八%       二から四%  第一区分
〇から四%       〇から二%  第二区分
ゼロ以下       ゼロ以下  第三区分

三 上記「分類債権」の公表
債務超過(第三区分)
経営危機に陥る銀行(第一区分、第二区分)

四 上記銀行に対する措置を発動
債務超過(第三区分)の銀行--破たん処理は新たに「整理回収銀行第二部」あるいは国営銀行を創設し、信用不安を起こさないような慎重な処理が必要です。
安易な形で銀行をつぶすと、地域経済は壊滅的な打撃を受けてしまいます。
そして、何よりも金融システム破たんの連鎖を避けることが肝要です。
債務超過の銀行の処理策は大きく分けて、次の四つのパターンがあります。
A 生産方式--預金などすべてを清算し、消滅させる--不適当
B 再生方式--不良債権を切り離して処理し、新銀行として再出発させる--不適当
C 解体処理方式-- 受け皿銀行に対する営業譲渡を行う--適当
D 分社化--持ち株会社を活用し、分社化して不良債権を切り離し「いい銀行」部分だけで経営を継続する--適当

清算方式、再生方式では、銀行再建はままならないことは、これまでの事例でも明らかです。個別銀行によって、経営の実情にはかなりの差がありますから、その経営状況に応じて、解体処理あるいは分社化による経営再建を図るべきでしょう。
その際、地域経済の安定、借り手保護のためにも、「銀行の不良部分」(Bad Bank)を引き受ける「整理回収銀行第二部」(今の整理回収銀行とは別組織)の新設を検討すべきではないでしょうか。
経営危機に陥る銀行を(第一、第二区分の銀行)--優先株などの買い取りにより資本注入を行う。
その際、厳しい条件を課す必要があります。
まず、問題銀行に、金融当局と図って「経営健全化計画」を策定させ、提出することを義務づけます。同時に、普通株の「減資」を行います。「減資」するためには、経営責任を取らねばなりませんから、代表権のある取締役は全員辞任させる。「減資」に応じて、人員、給与、店舗の削減を実施させます。
この措置によって、銀行の不良債権は確定し、経営責任は明確になるはずです。

五 まず、ディスクロージャーに関しては短期間に時限にて行う必要があります。具体的には三月期決算までに数字を確定させることです--「金融システム改革特別期間」
ただし、破たん銀行の処理は事務的手続きが膨大なために、第二弾、第三弾と段階的に分けて、銀行再建を進める必要があります。これには数年単位の時間がかかるでしょう。
この大手術を進めることによって、金融業界の再編成を行い、残った銀行は「優良銀行」と再生させることが可能になります。

実施のための立法措置

とにかく三月期決算が勝負どころ。この機を逃さず、各銀行の経営状況のディスクロージャーを進めるべきです。その方法は、全銀行に対して、引き当てを要請させることです。そのために、金融当局が「統一ガイドライン」を策定し、各銀行に対して、十分な引き当てを強制すべきです。
この引き当てを実施しない銀行は「よほど経営が悪化している銀行」と、国民、預金者に思わせるように、各報道機関を通じて周知徹底させれば、横並び意識の強い銀行業界は必ず動くはずです。
もちろん、銀行といえども民間企業ですから、経営者が「公的資金はいらない」というなら、それは強制できません。優先株を発行する銀行が「刑事的に危ない」ということがわからない形で、公的資金を入れるなどということは初めから不可能なことです。しかも前述したように、各銀行にまんべんなく公的資金を注入したところで、金融システム安定には繋がらない。公的資金導入には、銀行サイドの倫理、徹底的なリストラが求められて当然です。
現在、実施しようとしている「貸し渋り策」は、 彌縫策(びほうさく)にすぎません。風邪をひいている患者に熱冷ましを与えている程度のことで、風邪の根本原因にまで立ちいって、対策を考えていない。重ねて言いますが、問題の根っこは「不良債権処理」にあります。今やるべきことは、各銀行に対して「まず不良債権処理を進めよ」ということです。
しかし、処理することで破たん銀行が続出してしまえば、金融恐慌を起こしかねない。そこで、銀行に対しては「第一に債権のロスを自前で処理しなさい。それでも足りない部分は、一時的に公的資金で立て替えましょう」という態度で臨むべきです。
まず、病気の根本原因を取り除くことこそ肝要なのです。こうすれば、単なる対処療法ではなくなります。
さらに緊急に取り組むべきは、こうした銀行再建を推し進めるために、銀行再編の青写真をきちんと描くべきです。
焦眉の急である「銀行再建」をどうするか。これまで示したのはあくまで試案ですから、幅広い層が互いに政策やプランを出しあい、問題提起をすべき時です。
こうした金融システムの安定化とともに、他の財政政策、その他の経済対策もできるだけ早く実施しなくてはなりません。現在の不況に対して、景気政策をパッケージにして実施しなければ効果が半減してしまう。あらゆる手だてを講じ、できるだけマーケットにもインパクトのある形で提案・実施されるべきです。
言うまでもなく、日本は世界最大の財政赤字を抱える国です。高度成長時代以降、多額の借金を重ねて、公共事業を起こしながら、今日まで我々がやってきました。しかし、この厳しい財政構造をなんとかしなければならないというので、財政構造改革を私自身も関わって推進して来たのです。
現在、日本の一千二百兆円もの個人預金がありながら、財政では五、六百兆円の借金がある。この状況を「糖尿病」に例えるとよくわかるのですが、この借金体質(高い血糖値)を下げようというのが財政構造改革なのです。高かった血糖値を、薬や食事、運動によってぎりぎり下げようと努力することは本当につらいことです。そうした治療中にちょっと過剰な運動をすると、一時的に低血糖に陥る場合もあります。
ちょうど、今の日本経済がそういう状況なのです。今、大変な高血糖を落とそうとしている最中ですが、そのために国の経済がマヒ(不況)してしまっては何にもならない。長期的には財政再建が不可欠ですが、いまは低血糖の時に砂糖水を飲むように、財政出動も考えてないと、国が滅びてしまうかもしれない。糖尿病を直しても、昏睡して死んでしまっては意味がないではありませんか。

一覧へもどる
  • 梶山静六論文集
  • 資源・エネルギー戦略調査会
  • カフェスタ
  • 自民党
  • 自民党米作りプロジェクト
  • わくわく茨城県民会議